耐震診断方法とは|種類や診断の流れ、費用の目安を徹底解説
地震大国の日本では建物の耐震性能がとても重要です。耐震性能を測る『耐震診断』を実施すれば、現時点で定められている耐震基準を満たしている建物であるかどうかを確認することが可能です。耐震基準は1981年(昭和56年)の建築基準法の改正によって新耐震基準に変わっているので、1981年以前に建てられた建物は耐震診断をして性能を確認する必要があるでしょう。
ここでは耐震診断の方法と費用の目安について説明致します。耐震診断を検討している方はぜひ参考にしてください。
耐震診断とは
耐震診断とは、1981年(昭和56年)以前に旧耐震基準のもと設計された建物の耐震性能を現行の耐震基準で測ることを指します。現行の耐震基準は『建築基準法』によって定められており、『震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程度の大規模地震でも倒壊は免れる』という基準を設けています。
耐震診断は木造の建物を対象に行う診断方法と、非木造の建物を対象に行う診断方法があり、それぞれ診断方法が複数存在します。例えば、木造であれば破壊を伴う精密診断法と破壊が伴わない一般診断法。非木造(鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造など)であれば1次診断法~3次診断法といった計算方法の違う3種類の診断方法があります。
耐震診断方法の種類
耐震診断の方法は『非木造の建物』と『木造の建物』では大きく違います。住宅の持ち主がセルフで簡単に診断できる方法や、一級建築士などの専門家が診断する方法があるので、以下を参考にどんな診断方法があるのか把握してください。
【非木造(鉄骨造・鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造)の建物に対して行う診断方法】
- 1次診断法
→現地調査は行わず、柱・壁のコンクリートの断面積より行う診断方法
(壁式RC造に用いられることが多い、但し補強設計に進むことが出来ません)。 - 2次診断法(非木造の耐震診断において、通常多く用いられる診断方法です)。
→現地調査を行い、その結果得られた情報を元に行う診断方法。
- 3次診断法
→2次診断よりもさらに高度な計算で行う診断方法(特殊な建物に用いることが多い)。
【木造の建物に対して行う診断方法】
- 誰でもできるわが家の耐震診断
→住宅の持ち主が自分で行える簡易でおおまかな診断方法(但し、補強設計に進むことが出来ません)。
- 一般診断法
→専門家が行う非破壊で目視にて行う診断方法(補強設計に進むことが可能な一般的な診断法です)。
- 精密診断法
→伝統工法(釘などを使わない建築工法)で建てられた木造建物の耐震診断などに用いる診断方法。
非木造の耐震診断方法
非木造の耐震診断法は1次~3次診断法までの3種類がありますが、最も活用される方法は2次診断です。それぞれの診断方法の詳細は以下の通りです。
- 1次診断法
1次診断法は、現地調査は行わず、図面のみから耐震性を検討する手法ですが、1次診断の結果だけでは補強改修の設計を行うことができません。
- 2次診断法
2次診断法は柱と壁のコンクリート強度や鉄筋量を使って計算をすることで耐震性能を測る方法です。1次診断より診断結果の信頼性が高く、学校や庁舎などの公共建築物の耐震診断で一般的に利用されている診断方法です。耐震性能向上のための改修(耐震改修)をする際に、2次診断の結果から耐震補強案を検討します。
- 3次診断法
3次診断法は2次診断法で利用する柱と壁以外に梁も計算対象に加えることで、現行建築基準法の保有水平耐力計算とほぼ同程度のレベルで耐震性能を測れる方法です。主に架構構造で耐震性能が決まる建物に使うのが向いているので、高層建築やペンシルビルなどの耐震診断時に用いられることが多いです。
木造の耐震診断方法
木造の耐震診断方法は以下の3種類があります。
- 誰でもできるわが家の耐震診断
- 一般診断法
- 精密診断法
『誰でもできるわが家の耐震診断』は、木造住宅の耐震診断・耐震改修を推進するために作成された診断方法で、正確な耐震性能を測るための診断ではありません。基本的には一般診断法を利用して耐震性能を調査して、適切な補強案を検討していきます。
誰でもできるわが家の耐震診断
『誰でもできるわが家の耐震診断』は、平屋または2階建ての一戸建て木造住宅向けの耐震診断方法です。問診形式の診断方法で、10個の問診に応えて評点の合計によって診断結果を出します。問診内容は以下の通りです。
【誰でもできるわが家の耐震診断』の問診内容】
- 建てたのはいつ頃ですか?
- いままでに大きな災害に見舞われたことはありますか?
- 増築について
- 傷み具合や補修・改修について
- 建物の平面はどのような形ですか?
- 大きな吹き抜けがありますか?
- 1階と2階の壁面が一致しますか?
- 壁の配置はバランスがとれていますか?
- 屋根葺材と壁の多さは?
- どのような基礎ですか?
参考:https://www.city.daito.lg.jp/uploaded/attachment/12096.pdf
住宅の所有者が自ら診断することで、耐震に関する意識の向上・耐震知識の習得ができるように配慮されており、この診断をきっかけに一般診断を受けてもらおうという狙いがあります。『誰でもできるわが家の耐震診断』を受けるだけでも、『マイホームの耐震性が理解できる』『住宅のどの部分が耐震性に影響するのか知れる』『防災意識の向上』が得られるメリットがあるので、お住いの家の耐震性をおおまかに知りたい方は診断する価値は十分にあるでしょう。
一般診断法
一般診断法は、木造住宅を対象に専門家が行う2つの耐震診断のうち一般的な診断方法のことを指します。対象となる主な建物は1〜3階建ての戸建て木造住宅が対象です。一般診断は調査に必要となる情報が記載されている図面を使って診断するので、壁や天井を剥がして行うような破壊検査は原則的に行いません。
一般診断法では『Iw値』を用いて耐震性を評価します。Iw値とは建物の粘り強さに形状や経年等を考慮して算出される構造耐震指標のことを言います。Iw値は『Iw値=Pd(家の保有耐力)/Qr(耐震のために必要な耐力)』という式で算出することができます。算出したIw値によって、以下の表のように建物の耐震性能を評価することができます。
【Iw値ごとの耐震性能】
安全性の目安 | |
---|---|
Iw値<0.7 | 震度6強の地震に対して倒壊、または崩壊する可能性が高い |
0.7≦Iw値<1.0 | 震度6強の地震に対して倒壊、または崩壊する可能性がある |
1.0≦Iw値 | 震度6強の地震に対して倒壊、または崩壊する可能性が低い |
精密診断法
精密診断法は主に伝統工法などで建てられた建築物を診断する高度な診断法です。一般診断法で『改修の必要性が高い』判断された建物を診断する際に活用する方法です。精密診断法を実施することで耐震改修が必要かどうかの最終判断を下します。この診断法では一般診断法と違って、必要に応じて壁や天井などを剥がし、内部の構造まで確認します。そのためより高度な知識と経験が必要となるばかりではなく多くの時間や大きな費用がかかります。
耐震診断の基準
耐震診断を実施して建物の耐震性能を評価する際、診断によって算出された基準値を参考に耐震性能のレベルを判断します。算出する基準値は構造耐震指標と呼ばれ、『Is値』と『Iw値』の2種類があります。Is値は鉄骨造や鉄筋コンクリート造及び鉄骨鉄筋コンクリート造の診断をする際に使われる数値で、Iw値は木造住宅の診断をする際に使われる数値です。
Is値(構造耐震指標)は保有性能基本指標、形状指標、経年指標を使って算出し、Iw値は建物の保有耐力を使って算出します。どちらの数値も耐震性能の判断基準が定められており、基本的に数値が高いほど耐震性が高いとされています。
Is値
Is値(構造耐震指標)は地震に対する建物の『強度』『粘り強さ』を考慮して、建物の階ごとに算出される数値です。『建築物の耐震改修の促進に関する法律』の告示により、震度6〜7規模の地震に対するIs値の評価は以下のように定められています。
震度6〜7規模に対する安全性の目安 | |
---|---|
IS値<0.3 | 耐震性がNG=倒壊、崩壊する危険性が高い |
0.3≦Is値<0.6 | 耐震性がNG=倒壊、崩壊する危険性がある |
0.6≦Is値 | 耐震性がOK=倒壊、崩壊する危険性が低い |
【Is値の算出方法】
- Is値=E0×SD×T
- E0:保有性能基本指標=建物が保有している耐震性能を表す指標
- SD:形状指標=平面・立面形状の非整形性を考慮する指標
- T:経年指標=経年劣化を考慮する指標
E0はIs値を求めるにあたって一番重要とされる指標で『C(強度の指標)×F(粘り強さの指標)』で算出できます。SDは1.0を基準に、建物の形状や壁の配置バランスが悪くなるほど数値が小さくなっていきます。
Iw値
Iw値は木造住宅を診断する際に利用する指標で、一般診断法と精密診断法を使う時に利用します。Iw値は震度6強~震度7の地震に対して家屋が倒壊する危険性を表しており、その危険度は以下の表のように判断されます。
安全性の目安 | |
---|---|
Iw値<0.7 | 耐震性がNG=倒壊、崩壊する危険性が高い |
0.7≦Iw値<1.0 | 耐震性がNG=倒壊、崩壊する危険性がある |
1.0≦Iw値 | 耐震性がOK=倒壊、崩壊する危険性が低い |
【Iw値の算出方法】
- Iw値=Pd/Qr
- Pd:保有耐力=建物の地震に対する強さ
- Qr:必要保有耐力=地震で倒壊しないために必要な強さ
つまり、Iw値が1.0以上で『倒壊、崩壊する危険性が低い』ということは、Pdの数値がQrの数値より大きければ耐震性能に問題はないと判断することができるのです。
耐震診断の流れ
耐震診断は基本的に評価を下すまでの流れが概ね決まっています。具体的な流れは以下の通りです。
【耐震診断の流れ】
- 予備調査の実施
→建築物の概要、建物改装履歴など診断に必要な情報や資料の収集を行います。
- 竣工時の設計図の有無を確認
→設計図がない場合は、図面にあるべき情報を測定したり調査したりして収集していきます。
- 竣工時の完了検査の取得の有無を確認
→竣工時の検査済証が残っていない場合は、行政にて台帳記載事項証明書を取得することにより判明します。
- 現地調査の実施
→木造、非木造(鉄骨造・鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造・混構造)など、構造や目的に適した診断方法により耐震診断を行います。
- 調査内容から耐震診断に必要な数値を算出
→Is値やIw値など耐震診断を行うのに必要な数値(構造耐震指標)を算出します。
- 調査結果から総合的な耐震性能の評価をする
→算出した数値やその他の条件を考慮して、総合的な観点から耐震性能の診断結果を評価します。
耐震診断の費用の目安
耐震診断の費用は、建物の構造や竣工時の図面の有無、完了検査の取得の有無などによって違ってきますが、構図種別によって概ね目安があります。大きくは『鉄筋コンクリート造』『鉄骨造』『木造住宅』の3種類に分けることができ、それぞれの目安が以下の表の通りです。
耐震診断の費用の目安【(一財)日本耐震診断協会の場合】 | |
---|---|
RC造(鉄筋コンクリート造) | 延床面積が1,000㎡~3,000㎡の建物で
概ね 約1,000円/㎡~約2,500 円/㎡ |
S造(鉄骨造) | 延床面積が1,000㎡~3,000㎡の建物で
概ね 約1,200円/㎡~3,000円/㎡ |
木造住宅 | 延床面積が120㎡程の在来軸組構法の建物で
概ね30万円~60万円 |
木造住宅の費用は一般診断法を実施することを想定した目安となっています。また、いずれの場合も設計図書が無い場合は、耐震診断に必要な図面を復元しなくてはいけないのでその分費用は高くなってしまいます。
耐震診断なら(一財)日本耐震診断協会
『日本耐震診断協会』は実際に耐震診断を行っております。日本耐震診断協会は建物の耐震診断や耐震補強設計を実施している専門機関で、日本耐震診断協会及び協会員が耐震診断や耐震補強設計を行います。『竣工図面の有無に係らず、あらゆる構造の建物の耐震診断』のみならず『特定建築物の外壁赤外線調査やロープ打診調査』など実績は豊富で、安心して診断を任せられる機関です。
実績一覧:https://www.taishin-jsda.jp/performance.html
日本耐震診断協会では電話やメールでのご相談を受け付けており、補助金などに関する内容も協会で調べることも可能です。初めての方でも安心してお問合せ下さい。耐震診断や外壁調査の実施を検討されている方は、まず日本耐震診断協会へご相談ください。
まとめ
耐震診断とは建物の耐震性能を、現行の耐震基準に照らし合わせて測ることを言います。木造住宅や非木造住宅でも竣工時の意匠図や構造図の有無のご確認、竣工時の完了検査取得の有無の確認が第一ステップとなります。
また耐震診断の目的を診断者に明確に伝えると共に、第三者機関による評定の取得必要性の有無も伝えることも大切です。耐震診断や耐震補強設計についての不明点や疑問点がございましたらご遠慮なくお電話やメールにてご連絡下さい。
改修も見据えることから、費用面において心配がある方も多いと思われます。そういった場合には各自治体が無料診断や補助金の活用を推奨していますので、建物のある地区の自治体に問い合わせをして支援・補助内容を確認してください。